4. 犯罪に遭遇する危機
https://gyazo.com/e93513339d59ccc881518fcfe2585034
1. 犯罪の現状と犯罪不安
1-1. 犯罪に対する危機意識
2012年の内閣府の調査から、治安の悪化を懸念する人が大多数を占めていることがわかる(内閣府, 2012) 「あなたは、現在の日本が、治安がよく、安全で安心して暮らせる国だと思いますか」
39.4%が「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」
2006年では52.5%と比べると、否定的な回答が減ったようにも見える
「ここ10年間で日本の治安はよくなったと思いますか。それとも悪くなったと思いますか」
81.1%が「悪くなったと思う」「どちらかといえば悪くなったと思う」
2006年の数値(84.3)から大きく変化してはいない
犯罪統計などを綿密に分析すれば、犯罪の多発化、凶悪化、低年齢化を支持する証拠は見つからない
例えば犯罪白書(法務省, 2015)によれば、刑法犯の認知件数は、2003年以降毎年減少しており、直近の2014年の統計では、戦後最多だった2002年の半数にまで減っている またその約半数は窃盗である
少年犯罪も、実数、人口比ともに減少しており、2014年はこれまでで最も低い水準であった
https://gyazo.com/87229edce074619121d1d4a10d2fec84
少年犯罪に置いて最も多いのは窃盗(59.5%)で、次に多いのが放置自転車を持ち去るなどの遺失物等横領(14.3%)
1-2. 犯罪リスク認知と犯罪不安
危険意識の程度は、犯罪の種類によっても異なる
中谷内・島田, 2008は、一般大学生に18の罪種を提示し、強盗の発生件数が年間約6000件であることを伝えた上で、それぞれの犯罪の最近1年間の認知件数を推定させた https://gyazo.com/28a39e0bf7956360e9be646fa58514a7
「薬物常用者による殺人」のような現実には発生頻度が低い犯罪の認知件数を過大に推定
「空き巣」「窃盗」などの実際には発生頻度が高い犯罪の認知件数を過小に推定
同じ調査を警察官を対象に行うと、このような歪みは見られず警察官はほぼ正確に各犯罪の認知件数を推定した
発生頻度が過大視された罪種は身体犯罪
殺人、人質をとっての立てこもり、身代金目立ての誘拐など
発生頻度が過大視された犯罪は財産犯罪
窃盗、空き巣、ひったくり、振り込め詐欺など
喚起される不安の高さが発生頻度の過大な推定につながっているのだと考えられる
中谷内・島田, 2008の研究ではさらに、一般市民が個々の犯罪に対してどの程度、不安を抱いているかを警察官に予測してもらい、それを大学生が感じている不安と比較してる 警察官が予測するよりも高い不安を学生が感じていたのは、発生頻度が低い身体犯罪がほとんどだった
1-3. マスコミの影響
犯罪に対する人々の意識は、次の3つのいずれかをもとに形成されると考えられる
自らの被害経験
家族や友人、知人など、身近な人々から伝え聞いた被害経験
マス・メディアによる犯罪報道
人々が遭遇する可能性の低い犯罪に対して抱く危機意識は、主にマス・メディアによる犯罪報道に由来するものだと考えられる
テレビ・ラジオ(95.5%)
新聞(81.1%)
家族や友人との会話など(38.4%)
マス・メディアの長期的、反復的接触は、その人の現実認識を、マス・メディアが描いているものに沿ったかたちで培養する
テレビには現実よりも遥かに多く暴力や犯罪が描かれているという結果を踏まえて、テレビを長時間視聴する者(1日平均4時間以上)とあまり視聴しない者(2時間以下)の比較を行った
その結果、前者の方が暴力犯罪や事件の発生頻度を高く見積もり、暴力対する不安や他者への不信感も高かった
ただし、このような培養結果は、その後の研究では、必ずしも一貫して見られているわけではなく、理論を精緻化する必要も指摘されている
パーソナル(個人的)なレベルでのリスク認知は、インパーソナル(社会的)なレベルでのリスク認知とは異なる マス・メディアが人々の現実認識に与える影響はインパーソナルなレベルのほうが大きいと指摘
自らの居住値域の治安
1年前より「悪くなった」8.9%
1年前と「変わらない」が7割
日本全体の治安
1年前より「悪くなった」5割以上
2. 犯罪を予防する
2-1. 再犯の防止
犯罪者の犯罪歴
日本の場合、刑事施設に収容される受刑者数は全体としては減少傾向にあり、特に初入者の数は明らかに減少している
その一方で、再犯などによって入所を繰り返す再入者の数はあまり変化が見られていない
結果として、入所者全体に占める再入所者の割合は年々増え続け、2014年の統計では全体の約6割(58.5%)を占めるに至っている(法務省, 2014) つまり、治安維持において最も重要なのは、犯罪者の社会復帰を促し、再犯率を減らすことだと考えられる
政府も「再犯防止に向けた総合対策」(2012)
2-2. 割れ窓理論
犯罪の原因を追求し、犯罪をもとから絶とうとする考え方
環境を整え、犯罪者に犯罪をする機会さえ与えなければ、犯罪は発生しないとする考え方
放置された割れ窓は、そのことを気にかけている人がその地域に誰もいないというシグナル 軽微な違反行為の放置が犯罪の増加をもたらす一方で、軽微な問題に住民が関心を持ち、対処していくことで、地域の安全は保たれると割れ窓理論は想定する
1994-2001のニューヨーク市長ルドルフ・ジュリアーニが地下鉄の落書きなど軽微な違反行為を徹底的に取り締まったことで、殺人・強盗などの凶悪犯罪を大幅に減少させたとされている 2-3. 社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)
割れ窓理論は、警察による徹底的な取締のみを重視しているわけではない
地域の秩序違反を排除することにのみ躍起になり、それによって地域内の人間関係が損ねられたり、相互不信を植え付けたりするものとになりかねないことが指摘されている
ニューヨーク市の成功は現実には、警察だけでなく、住民と警察が協力して、地域の治安に取り組んだことが成功につながったのだと考えられている
近年は「良好な治安の確保は独り警察のみによって達せられるものではない」とし、地域社会や関係機関等と連携した取り組みを政府が推進している
研究者によって様々に定義されているが、一言で言えば、社会のつながりや、人間関係の豊かさをあらわすもの
3つの要素がうまく噛み合うことで、社会システムは円滑に運営されるとパットナムは主張する
社会関係資本の有効性の一つとしてしばしば挙げられるのが、犯罪発生率の低下
アメリカ社会における社会関係資本の量を指標化して州別に算出し、それと各州の殺人率との関係を調べた
社会関係資本が低いほど、殺人率が高いという負の相関が見られた
社会関係資本を構成する要素を、信頼、社会参加、つきあい・交流とした上で、これらの程度を表す指標を作成し、独自の社会関係資本指数を算出
この指数と2003年の刑法犯認知件数との関係を都道府県別に調べたところ、両者の間にはやはり負の相関関係が認められた
ただしここで注意したいのは、社会関係資本の醸成には負の側面も存在するということ
特定の集団の内部における人と人との結びつきに基づくもので、我々が集団の結束としてとらえる類のもの
同質的で内部志向的な性質を持つため、集団内部では連帯意識が強化され、社会関係資本の恩恵を受けやすい
一方、外部に対しては閉鎖性をもたらすため、他集団の者に対して排他的になり、葛藤が頻発することがある
また集団内部の者に対しても、集団としての種々の規範を守ることへの圧力が強く、相互監視によって個人の自由が制限される危険性もはらんでいる
異なる集団の人々を結びつける外部志向的な性質を持つもの
集団内部での結束はさほど強くないが、異なる集団に対して開放的
したがって、この朱の社会関係資本が豊かん社会では、他者一般に対する信頼が高く、自分が誰かを助ければ、誰かから助けてもらえることもあるという、一般化された互酬性規範が醸成される
3. 振り込め詐欺
犯罪に遭遇する可能性を過小視し、実態以上に安心しきってしまい、警戒を怠ることもまた危険だと言える
発生頻度を過小視している犯罪は、油断をしているがゆえに、被害者になる可能性が高いとも考えられる
振り込め詐欺は、地域の防犯活動で効果的に予防することには限界があるため、個人レベルでの対策が必要
性別や年代などの属性が同じ他者よりも、自己のリスクを低く見積もる傾向のこと
「同じ性別の同じ年代の人に比べて、犯罪の被害にあう可能性が高いと思うか」
https://gyazo.com/e54593efc16a8c62d2ce9a79a5a56bab
低いと答える者が全体の半数以上を占める
特に70歳以上は66.1%、60歳代は61.7%と、高齢層において高い割合を示す
振り込め詐欺の中でも被害件数が多いオレオレ詐欺は、被害者の約9割が60歳以上 高齢者に特徴的な楽観性バイアスの大きさが、詐欺被害を拡大させている可能性を指摘できる
万一引っかかった場合に、そのことを事実として認識することが遅れたり、羞恥心から家族や警察への報告が遅れたりして被害を拡大させる恐れも指摘されている